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【内覧レポート】不貞を迫る人妻、天まで届く塔!?聖書が読みたくなる「バベルの塔」展

東京都美術館では、2017年4月18日(火)から7月2日 (日)まで『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―』を開催しています。初期ネーデルラント美術の代表格であるブリューゲルとヒエロニムス・ボスを軸に、ボイマンス美術館の貴重な収蔵品が数多く来日しています。

 

ブリューゲル、ボスだけではない!—15世紀、16世紀の職人たちの技で魅せる彫刻には要注目

「四大ラテン教父(聖アウグスティヌス、聖アンブロシウス、聖ヒエロニムス、聖グレゴリウス)」。多くの木造彫刻は、より豪華に見せるために金属を塗装したり彩色したりすることが多かったそう。けれど19世紀になると、素材に忠実な作品が好まれて、はがされてしまったのだとか。

 すでに大々的に宣伝されていたブリューゲルやボスといったネーデルラント美術の代表格を期待して行きましたが、良い意味でそれを裏切るボイマンス美術館の至宝に出会うことができました。会場を入ってまず目に入るのは、アルント・ファン・ズヴォレが制作したとされる「四大ラテン教父(聖アウグスティヌス、聖アンブロシウス、聖ヒエロニムス、聖グレゴリウス)」の木造彫刻です。美術史で取り上げられることは少ないですが、15、16世紀のネーデルラント彫刻は、絵画にも引けを取らないクオリティ!はるか昔の木造彫刻がこんなにも繊細で美しく、かつそれらの作品が今でも状態を保って展示できることに驚きました。もちろん彫刻に限らず、美術館の所蔵する素晴らしいネーデルラントの貴重な絵画がたくさん来日していて、見ごたえ抜群です。

 

不貞を迫る人妻、異常なほど重くなる子ども!?—ユーモラスな人間観察で描かれた宗教画

ボス、ブリューゲルらが活躍した15、16世紀の絵画というのは、ほとんど宗教のために描かれたと言っても過言ではありません。読み書きが当たり前でなかった時代に、絵画は人々を信仰へと導くための布教の役割を担っていました。聖書に興味のなかった人でも、思わず読んでみたくなってしまうほど、聖書の話というのは時代や場所を超えて普遍的な人間のテーマです。

ルカス・ファン・レイデン 「ヨセフの衣服を見せるポテパルの妻」  1512年頃  油彩、板  Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

例えばルカス・ファン・レイデンの「ヨセフの衣服を見せるポテパルの妻」は、妻が夫に召使のヨセフに無理やり強姦されそうになったと訴えています。けれど実際には、妻がヨセフに不貞を何度も迫っていたのです。何度も断られて恨みを持った妻が、嘘をついてヨセフを牢屋に閉じ込めてしまいます。画面左の窓の外には連行されていくヨセフの姿が。複雑な愛憎劇は紀元前から存在していたなんて、時代は変わっても人間は変わらないことの方が多いのかもしれませんね。

ヒエロニムス・ボス 「聖クリストフォロス」 1500年頃 油彩、板 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands (Koenigs Collection)

同じくヒエロニムス・ボスも、画家の創造性溢れるキャラクターたちでユーモラスに宗教画を描いた画家です。ある男がキリストに仕えることを決心し、隠者の元を訪ねます。隠者のアドバイスにより、川を渡ろうとする人々の手助けを始めた男。ある日小さな男の子に川を渡りたいと言われ、子供を背負って渡ろうとします。けれど赤子はみるみるうちに重くなり、男は息も絶え絶えに。子どもは男に自分こそがイエス・キリストであると告げます。そして巨人はのちに「キリストを背負った人」という意味の、聖クリストフォロスという聖人として知られるようになりました。ボスのこの聖クリストフォロスの絵画は、細部に作品のストーリーを暗示するモチーフがたくさん描きこまれていて、見飽きることがありません。

写真は原画を約300%拡大して再現したクローン文化財(高精細複製画)。ブリューゲルの「バベルの塔」は実はとても小さな作品だが、今回の展覧会では東京藝術大学COI拠点が協力して、作品をより近くで細かく見ることができるようになっている。

 

遠い時代の遠い異国で作られた作品ですが、それが表現する聖書にまつわるストーリーは、現代の我々にも通じるものです。人間の根源的な欲望や善良な部分を巧みに切り取った作品だからこそ、今なお多くの人を魅了するのではないでしょうか。古典ってそういうものだよなぁ、とバベルの塔やその他の作品を見て改めて感じます。多くの人々へ普遍的で重要なテーマを、わかりやすくユーモラスに教えることのできる画家の創造性と画力に、「バベルの塔」展でぜひ触れてみてはいかがでしょうか。

 

展覧会 『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―』

開催期間 2017年4月18日(火)~7月2日 (日)

休室日 月曜日(ただし5月1日は開室)

時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)

会場 東京都美術館 企画展示室

住所 東京都台東区上野公園8-36

公式ページ  ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―

 

 

長野県生まれ。19世紀イギリス・アイルランドの歴史や文化を研究しつつ、ライターとして活動している。アカデミアで行われている研究を、より多くの人に価値あるコンテンツとして届けたいと日々考えている。

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