内覧レポート 特集

「茶の美術」が地味だって?この展覧会を見たらそんなことは言えない!

東京国立博物館では4月11日(火)〜6月4日(日)まで特別展「茶の湯」を開催している。37年ぶりに大々的に行われる茶の美術に特化した展覧会であり、普段あまり見ることができない名碗や美術品が一堂に揃った奇跡とも言える展覧会である。

「茶の美術」果たして地味なのか?

「茶の湯」展と最初聞いた時、大変失礼ではあるが「きっと地味な展覧会なのだろう」と思ってしまった。

お茶と言えばわが国特有の価値観である「わびさび」の代表格と言って良いだろう。お寺で例えるのであれば「金閣」よりは「銀閣」寄りな、派手さとは対極に位置し無駄なものを極限までそぎ落としたもの。私たちが抱くいわゆる「わびさび」らしい、いかにもな「お茶」と言えばそんなイメージではないだろうか。


真台子 表千家不審庵蔵  唐銅皆具・釜・風炉

皆さんにも振り返ってもらいたい。美術館や博物館で古い茶碗や花入が展示されているのをガラス越しに見て、その本質的な魅力についてどれほど感じることができたか思い出してほしい。

あくまで個人的で勝手な推測ではあるが、「この地味な茶碗のどこに価値や魅力があるのか…」そんなことを展示されている茶碗の前で考えてきた人の方が多いのではなかろうか。

これは別に上から目線でもなんでもなく、私もそのクチだから気持ちがよくわかるのだ。見た目がパッとしない地味な花入や茶碗を見ても、正直心は踊らない。「これはかの有名な武将が愛でたとても立派なものです」という説明書きを読んで「へぇ、そういうものなのか」と後付けのありがたさのようなものを感じる。残念ながら私はその程度の感性の持ち主なのである。

しかしそんな貧弱な感性を持ちあわせた私であっても、今回の「茶の湯」展に関しては、周りの友人達に「これは絶対行ったほうがいい!!」とゴリ押ししてしまうほど面白い展示会であったから驚きである。

内覧に行ってきたので、レポートも含め今回の展覧会の魅力について紹介していきたい。

天下人達が愛した茶碗とユニークな作品

今回は37年ぶりに大々的に日本文化の象徴「茶の湯」についての展覧会を開くということもあり、国宝や重文を始め数々の「茶の湯」に関する美術品や名品が一堂に揃った。足利義政や織田信長、千利休など誰でも一度は耳にしたことがある、教科書に出てくるような天下人や茶人たちが愛でていたと言われるお宝を一挙に目にすることができるめちゃくちゃ貴重な機会なのである。

国宝 志野茶碗 銘卯花墻 三井記念美術館蔵

そういうこともあってか、日本だけでなく、海外からの報道陣も多く見受けられたのは印象的であった。(海外では日本の骨董、特に茶道具関連の人気は非常に高く、世界中にコレクターが多いジャンルであるということは付け加えておく)

しかし、先に述べたように目が二つの節穴で出来た私のような人間は目の前にある茶碗が「国宝級の逸品」「歴史的な名品」であったとしても、やはり説明とセットでなければその素晴らしさを理解することができないのが悲しいところだ。粛々と読み進める説明書きに、足利義政や織田信長、千利休といった、戦国時代の有名人が手に取って(または使って)いた逸品と書いてあると、節穴なりにも「おおぉ!これが!!」とひとしきりの感動はするのであるが、やはりそういった名品はなんとなくシンプルで、見た目のインパクトや面白さという部分において少しばかり物足りなさを感じてしまうのは致し方がないのである。

だからこそ、突然こんなユニークでヘンテコな(失礼ですみません)作品が目に入ってきた時、私の心はガッチリと鷲掴みにされてしまったのだ。

見た目がとても可愛らしい亀の香合 交趾大亀香合 藤田美術館蔵 (展示期間4月11日〜4月23日)

私が今回の展示会が面白いと感じたのは「国宝級の逸品」や「歴史的な名品」が一挙に揃っていただけでなく、こういった素人目に見ても「面白い!」と感じられるユニークな作品が比較的多く展示されていたというところが大きいと言える。

上記の亀の形をした香合だけでなく、魚の形をした取っ手の花入や水差しなのにヒビが入って、水差しとして使えない重要文化財の破袋など、「お茶」に興味がない人でも思わず足を止めてしまうようなユニークな作品が所々にあり、それがまた面白いのだ。

ちなみに、あの亀の香合のどこに「わびさび」を感じるのか、それは私にはわからない。ただ少なくとも、自分が茶会に呼ばれて茶室に入りあれが目に入ったら、思わずにやけてしまうのは間違いない。

「こんなヘンテコな亀も茶室に飾られていたのか…」自分の中にある格式高い「お茶」のイメージが幾分カジュアルになった瞬間であった。

「お茶=千利休」という連想からの脱却

重要文化財 千利休像 伝長谷川等伯筆、古渓宗陳賛 正木美術館蔵 (展示期間 4月11日〜5月28日)

今回は茶の歴史をたどりながら、時代とともに変遷していく茶の湯の美術を鑑賞できる、そんな流れの展示となっている。私も含めではあるが、日本文化における茶のイメージを思い浮かべた場合、「お茶=茶道=千利休」と流れるように連想される方は多いのではないだろうか。

もちろん千利休は茶の歴史の中で最も功績がある人物の一人であることには違いないのだが、今回は千利休だけではなく利休以前の時代の唐物や、江戸・明治など近代における茶の歴史や美術についてもしっかりと理解できるのも特徴的だ。(もちろん千利休に関する作品もたくさん展示されている)

特に近代の作品については、藤田美術館を始め、様々な美術館から名作をお借りしてきたとギャラリートークで公言していたほどの力の入れ様であり、作品点数も非常に充実していると感じた。

藤田香雪、益田鈍翁、平瀬露香、原三渓など、それまでの茶人や天下人とはまた異なる、数寄者(趣味人)と呼ばれる実業家達が近代の茶の主役になっていく。彼らのコレクションはユニークな作品も多く、あまり「お茶」を知らない私でも目を引く様な作品が幾つも見られた。

個人的な好みもあるとは思うが、近代のブースが色彩が華やかで形のバリエーションも豊富であり、一番楽しく鑑賞できたかもしれない。

色彩が鮮やかで美しく思わずうっとりしてしまう 色絵若松図茶壺 仁清 文化庁

時系列で作品を鑑賞していくことで、利休以前、利休以後の「お茶」の文化や美術について視覚的に学ぶことができたのは、教養という面からも非常にためになるものであった。

普段の生活の中で「お茶=茶道=千利休」以上の知識は必要ないのかもしれない。しかし、日本の伝統文化である「お茶」は世界でも高く評価されている日本の誇るべき文化であり、教養としてもっと深く知って損はない。むしろ日本人として、もう少し知っておくべきことなのかもしれない。

そういう意味では、今回の展覧会に足を運ぶことは利休以外の「お茶」を知る上でも、とても良い機会になると私は思う。

今回の目玉!いま話題沸騰の「曜変天目」

国宝 曜変天目 稲葉天目 静嘉堂文庫美術館蔵(展示期間 4月11日〜5月7日)

いま日本で最も注目を浴びている茶碗の一つと言っても過言ではないだろう。見た瞬間に「いい仕事してますねー」と言いたくなる茶碗、それが曜変天目である。

某人気鑑定番組で国宝級のお宝が発見か!?と注目されたが、色々と騒動となり、うやむやとなってしまったあの曜変天目である。もちろんこちらに展示されているのは国宝であり正真正銘の本物なのは言うまでもない。世界で3つしかないと言われる曜変天目、そのうちの1つである稲葉天目が、今回の展覧会の目玉として展示されているのである。

「曜変」は釉中の成分が焼成時の科学変化により偶発的に斑紋が生じ(これがつまり「窯変(ようへん)」である)その星のようなキラキラとした美しい輝きから「曜変」または「耀変」と表すようになったと言われている。ちなみに「天目」は宋から元の時代に、中国の天目山に学んだ留学僧たちが持ち帰った黒釉茶碗が由来となり、黒釉が掛かった焼き物を日本で「天目」と呼ぶようになったそうだ。

実際間近で見てみると、まるでガラスで作られたような透き通った色彩が印象的で、黒というよりはどちらかというと濃い青である。ぱっと見は何となく薄気味悪い茶碗なのだが、じっと眺めていると少しずつ魅きつけられる美しさを感じてくるから不思議である。

「器の中に宇宙が見える」とはよく言ったもので、透き通る様な黒々しい濃い青とキラキラとした丸い斑紋はまるで星空の様である。

中国では曜変天目は不吉なことの前兆と考えられ、すぐに破棄されていたという説もあるらしい。

何せ世界に3つしかない、国宝中の国宝である。この機会に是非足を運び、実際に「器の中の宇宙」をその目でしかと見届けてもらいたい。

いかがだったろうか。37年ぶりに大々的に開催される特別展「茶の湯」。12世紀から江戸・明治までの歴史を辿りながら、各時代を象徴する名作・名品を一挙に鑑賞することができる大変贅沢な展覧会である。これほどまでに豪華な作品を一度に見られる機会はもう二度とないと言ってもいいのかもしれない。

お茶に興味がある方はもちろんのこと、興味がない方でも日本の伝統文化である「お茶」の面白さを改めて見直すきっかけになる展覧会になることは間違いないだろう。

この貴重な機会を逃さず是非足を運んで、次代につなぐ日本の美の粋をしっかりと感じてもらいたい。

About

同志社大学卒業。日本生命相互会社、朝日税理士法人、HIPHOPダンサーを経て起業。現在は世界中のアンティークやアート、クラシックカメラを販売する会社を経営している。また、ライターとして雑誌やwebを始めとした媒体で執筆やインタビューなども手がける。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です