コラム 特集

模倣からオリジナルのアートは生まれる〜ゴッホが教えてくれる創造性のヒント

美術史に名を残す天才と謳われた芸術家たち。その才能の源泉は一体どこから湧いてくるのだろう。やはり天才なのだから、きっとひょんなことから閃いて、次々に独創的な作品を生み出している…?いえいえ、そんなことはありません。前衛芸術家として新しい芸術シーンを切り開いたと認知されている巨匠ゴッホも、自身の作品を描くための新しい表現方法を他の画家や芸術家ら学び取ろうと、膨大な模写に取り組んでいました。

 

模写は画学生の鉄則!?

Peter Paul Rubens Venus and Adonis. probably mid-1630s.

古くから絵を学ぼうとする時には、昔の巨匠たちの作品を模倣し、その表現方法や人間の理想的な身体の構図について学ぶことが基本とされてきました。古代の素晴らしい諸芸術は、今では失われてしまった自然を完璧に再現した史料であると見なされ、優れた作品を生み出すための研究材料として熱心に模倣されました。例えばルーベンス(Peter Paul Rubens)は、古代彫刻の人物造形に学ぶことにより、今にも動き出しそうな生き生きとした身体をカンヴァスの上で描いて見せ、他の画家たちにも積極的に模写をするべきであると説きました。

 

いつしか模写絶対主義へ突入してしまったアート界

William Blake. The Angel Appearing to Zacharias. 1799–1800.

そうした模写による研究というのは、芸術活動を志す上で鉄則となっていきます。ヨーロッパ各国で、美術を教えるためのアカデミーが次々と創設され、その影響力を強めていきますが、その教育カリキュラムの大部分を占めていたのが模写による鍛錬と研究でした。アカデミーの権力が増すにつれて、理想的な表現を学ぶための史料として使われていたはずだった模写という方法論が、アカデミーの好むオールドマスターの作品を完全に再現できる画家が評価されるというヒエラルキーを生み出すことになります。しかし18世紀に入るとそうしたアカデミーの権威主義に反発し、画家のオリジナリティを擁護する人々が次第に登場します。イギリスの詩人・画家であるウィリアム・ブレイク(William Blake)は、そうしたアカデミーの態度に反発した一人です。ブレイクは生きているうちにあまり評価されませんでしたが、アカデミーの教育にとらわれない独創的な作品を残しました。

 

「自分らしく」古典に学ぶことでオリジナリティを獲得したゴッホ

Vincent van Gogh. La Berceuse (Woman Rocking a Cradle; Augustine-Alix Pellicot Roulin, 1851–1930). 1889.

19世紀に入ると、「アカデミーの嗜好に縛られず、自分の好きだと思った画家に学ぼう」とする画家たちが次々と現れ、模写を単なる複製ではない新しい芸術表現のための材料にしていきました。ゴッホもまぎれもないその一人です。公的な美術教育を受けていないゴッホは、アカデミーがお手本として推奨するラファエロといった巨匠を素通りし、自分の心惹かれる作家の作品を次々と模写していきます。そのお手本は、ドラクロワ、レンブラント、ミレー、そして何と日本の浮世絵も!確かに従来の西洋的な遠近法に依らないゴッホの絵は、日本画と通じるところがあります。そうやってゴッホは自分が素晴らしいと感じた作品から、色彩や遠近法など様々な表現方法を学び取り、自分のものにしていきます。

 

アカデミーの規律から解放されて、画家が自由に模写をしていく時代にゴッホがいます。ゴッホのようなオリジナリティ溢れる画家の作品も、先人たちの傑作から多くを学ぶことで生まれました。むしろ、彼は自分の好奇心に任せて、他の作家の作品を研究したからこそ、あの作品たちが生まれたのです。

真のオリジナリティとは、過去の先行研究と対峙し、その中から自分が興味を持ったことを徹底的に追求することで生まれるのかもしれません。いつもいいアイディアが出なくて困っている方、ゴッホや多くの画家たちのように、模倣というクリエイティブを参考にしてみませんか?

 

トップ画像:Vincent van Gogh. Sunflowers. 1887.

長野県生まれ。19世紀イギリス・アイルランドの歴史や文化を研究しつつ、ライターとして活動している。アカデミアで行われている研究を、より多くの人に価値あるコンテンツとして届けたいと日々考えている。

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