コラム 特集

【動画あり】好きなマンガ家に「葛飾北斎」を加えてみてはいかがでしょう?

鉄腕アトムにドラえもん、ドラゴンボールにONEPIECE…。

現代の日本文化を語る上でマンガというコンテンツは決して避けて通ることができないジャンルであると言っても過言ではない。

少し前の話になるが「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である荒木飛呂彦氏のイラストが、世界最高峰の学術雑誌「Cell」の表紙を飾ったということがあった。そのニュースを聞いたとき「日本のマンガもついにここまで世界で評価されるようになったのか…」と、ものすごく感慨深いものを感じた記憶がある(ちなみに私はジョジョが大好きである)。学術誌、それもあのネイチャーに並ぶとも称される世界最高峰の学術誌の表紙にあのジョジョが…。マンガ好きの自分にとってこれほど衝撃的で嬉しいニュースはなかった。

今やマンガは日本の文化であり、芸術である。「Comic」ではなく「Manga」という単語が成立してしまうほど、日本のマンガは世界中から高く評価され、浸透しつつあるということは知っておくべきであろう。

しかし、これは今に始まったことではない。遥かむかし、200年ほど前にも日本の「漫画」がヨーロッパを中心に世界中を席巻していたという事実を皆さんはご存知であろうか。歴史が苦手な方でも一度は耳にしたことがあるであろう、あの人物が描いた漫画がなんと1800年代のヨーロッパで大流行していたというのだから驚きである。

その漫画のタイトルは「北斎漫画」。世界で最も影響を与えた画家の一人とも言われる、葛飾北斎が描いた作品である。

富嶽三十六景 神奈川沖浪裏 The_Great_Wave_off_Kanagawa Wikimedia Comons

北斎といえばすぐに連想されるのは浮世絵であろう。日本の様々な場所から富士山の景観を描いた「富嶽三十六景」は歴史の教科書でも紹介されているので、知っている人も多いのではと思う。しかし、今日紹介するのは浮世絵ではなく、あくまで漫画である。

 

ゴッホにも影響を与えた「北斎漫画」

河童や人魚など空想上の動物も「北斎漫画」では描かれている
『北斎漫画』3編より 国立国会図書館 デジタルコレクション

気の向くままに漫然と描いた画。

北斎は自身が描いた「北斎漫画」のことをそう呼んでいたらしい。”漫然と描いた画” だから「漫画」。この時点で、私たちが知っているマンガとはちょっと意味が違う。「あの北斎が描いた漫画なのだからさぞかし面白いものなのだろう」期待に胸を膨らませて、「どれどれ…」と中身を見てみるのであれば拍子抜けしてしまうこと請け合いである。「北斎漫画」は漫然と描いた画、マンガというよりはスケッチ画集と言ったほうがしっくりくるものなのである。

ただ、いくら北斎が漫然と描いたと言っても、私たちが適当に描くいたずら書きの類のものではないことは付け加えておく。そこは曲がりなりにも天才画家「葛飾北斎」の作品であることは忘れてはならない。

「北斎漫画」より 殷の妲己 Hokusai Daji Wikimedia Comons

人物、風俗、動植物、妖怪変化まで約4000図、発行するや否やすぐに人気となり全十五編まで刊行された「北斎漫画」。その卓越した描写力と構図は、あのゴッホやゴーギャン、モネなどにも大きく影響を与えたとも言われているのだから、北斎が今もなお世界中で人気があるというのは頷ける。

「漫然じゃなくてめっちゃ本気で描いてるやん!」と思わずツッコみたくなるのだが、猫を描いたつもりなのに「これは牛ですか?」と真顔で質問されるほどの画力を持つ私に、そんなことを言える権利はないのはわかっているので、そこは黙っておくことにする。

 

「北斎漫画」は現代のマンガとは違うのか?

寝ているときの夢が吹き出しを使って表現されている
「北斎漫画」12編より 国立国会図書館デジタルコレクション

「北斎漫画」は私たちの知っているマンガとはまったく異なるものなのだろうか?

「北斎漫画」は元々、北斎が自身の弟子などに絵手本として発行したスケッチ画集のようなものであり、いわゆる現代のマンガとは全く違うものである。一応、これが一般的な回答である。もちろん私もその解釈に異論はないのではあるが、ただ現代のマンガに通じるユーモアや表現の原点のようなものは垣間見ることはできると言っても良いかもしれない。

例えば、この絵を見ていただきたい。

頭から火花が?!
「北斎漫画」10編より 国立国会図書館 デジタルコレクション

よくマンガやアニメなどでアイディアが閃いたシーンで、頭の上に電球がピカッと光るアレである(決してハゲ頭が光っているわけではない)。北斎はこれを自然火と書いているのだが、いつの時代も閃きというのは似たような観点で表現されているということがわかる。また、それ以上に注目すべき点は、頭の上に描かれた火花だ。これは目で見えないものを線で描いて表現する、いわゆる「漫符」と呼ばれる記号表現である。いまでこそ、汗がタラーっと流れたり、ガーンと顔にたて線が入ったりと「漫符」は当たり前のように使われているが、北斎が生きていた江戸時代にこれが既に使われていたというのは驚きに値する。この絵だけパッと見れば、何かのマンガの一コマで使われていても違和感はないのではなかろうか。おもわずそんな風に思ってしまった。

また、現代のマンガで求められる、ちょっと笑えるような「コミカルさ」や「ユーモア」という点においても「北斎漫画」は決して忘れてはいない。読者を笑わせるために描いたとしか思えないような、ある意味ふざけた絵も「北斎漫画」ではしっかりと描かれている。

左上の絵では鼻息が線で描かれている、これも漫符の一つと言えるだろう
「北斎漫画」10編より 国立国会図書館 デジタルコレクション

変顔という忌まわしき文化が江戸時代から存在していたのかと思うと、少々頭が痛くなってくるのは私だけだろうか。よく街で変顔の写真を撮っている若者たちを見て「なんであんなアホなことをしてるんだろう…」 と嘆く大人たち(私も含む)は多いと思うが、こんな昔からこのような変顔が存在しているのであれば、江戸時代から脈々と受け継がれた伝統文化として変顔というものを認識しておく必要はあるのかもしれない。

そして、変顔といえばこれもそうだろうか。

トップ画とセットの絵である、すごい変顔だ…
「北斎漫画」12編より 国立国会図書館 デジタルコレクション

ヒゲおやじのアッチョンブリケ…、あまりにも衝撃的だ。どういう顔をして北斎はこの絵を描いていたのだろうか。手塚治虫が描いた「ブラックジャック」に出てくるピノコのアッチョンブリケが「北斎漫画」から着想を得たと言われても信じてしまいそうな絵である(全然可愛くないけど)。

また、そのほかにもこの「隠れ食い」などは非常にユーモラスで、個人的には「サザエさん」っぽいなぁと思って見てしまった。

どことなく「サザエさん」でありそうな絵だと思うのは私だけ?
「北斎漫画」12編より 国立国会図書館デジタルコレクション

上記の他にも、現代のマンガに当然のようにある吹き出しや、4つの絵で起承転結を描く4コマ漫画の元祖のような絵も「北斎漫画」には存在している。

「北斎漫画」は確かに絵手本であり、スケッチ画集のようなものであるかもしれないが、現代のマンガに通じる流れの源流として位置付けたとしても、まったくおかしくないのかもしれない。

北斎が作り出した江戸時代のアニメーション

 

「北斎漫画」3編より雀踊り図 suzume odori Wikimedia Comons

上記の絵を見ていただきたい。

これは「北斎漫画」で描かれている雀踊り図という絵である。一応ながら元HIPHOPダンサーという立場でお話しさせていただくと、踊りの振り付けには「動」の振りと「静」の振り(動きが止まり小さなポージングのようになる振り)が交互に存在して構成される。この雀踊り図はそのわずかな「静」の振りの瞬間を一つ一つ逃さずに描いたものであると考えられる。派手な絵ではないのだが、これを描くには何度もこの雀踊りの振り付けを、それこそ目に焼き付けるほど見なければ描けるものではないだろう。

しかも驚くべきなのはこの雀踊り図、一つ一つ人物を切り取ってパラパラ漫画のようにすると、実際に踊っているように見えるのだから、鳥肌ものである。

実際に絵を切って、音楽に合わせて動かしてみたのでちょっと見て欲しい。

北斎が意図して描いたかどうかそれは今となってはわからないのだが、少なくとも一つ一つの絵をつなげればこのように動くだろうというのは、頭の中で理解して描いていたのではないかと私は考えている。

というのも「北斎漫画」以降に描かれた実用書「踊独稽古」を見ると、北斎が絵を動かすということについて、しっかりと頭に入れて絵を描いていたということがうかがえるからだ。

線を使って的確に動き方を指南しているのがすごいが、それよりもどんな踊りかが気になってしまう…
「踊独稽古」国立国会図書館 デジタルコレクション

そう考えると北斎は絵を静止画としてだけではなく、動画として捉えるという思考を持っていたのかもしれない。現代で言うところのアニメーターのような視点を持って絵を描いていたのであれば、それこそ北斎は現代の日本が誇るマンガ・アニメの原点と考えてもおかしくないのである。

「北斎漫画」は絵手本であり、現代のマンガとは全く違うもの。

先にそんな一般的な解釈を述べたが、改めて考えてみるとどうだろう。日本が世界に誇るマンガという文化がこれほどまでに発展したその土壌に、江戸時代の天才画家、葛飾北斎が見え隠れしていると感じるのは果たして私だけだろうか。

確かに「北斎漫画」には一貫したストーリー性はなく、スケッチ画集であるといえばそうである。しかし、そこに描かれている一つ一つの絵には人物の動きやストーリーがしっかりと読み取ることができ、それこそ現代のマンガやアニメのように楽しんで見ることができるのだから面白い。

とりあえず私が最後に言いたいこととして、鳥山明、荒木飛呂彦に並び、好きな漫画家の一人に葛飾北斎の名が加わったとしてもなんら不思議なことではないということだ。

北斎は世界で最も人気のある浮世絵師であり、偉大なるマンガ家の一人なのである。

そういうことで今日は締めたい。

トップ画 「北斎漫画」12編 国立国会図書館 デジタルコレクション

About

同志社大学卒業。日本生命相互会社、朝日税理士法人、HIPHOPダンサーを経て起業。現在は世界中のアンティークやアート、クラシックカメラを販売する会社を経営している。また、ライターとして雑誌やwebを始めとした媒体で執筆やインタビューなども手がける。

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