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2010.12.14

ファインダーから覗いた、『ノルウェイの森』 ~木村伊兵衛写真賞作家・岡田敦インタビュー~

テーマ:トレンド  | カテゴリー:  写真  映画  

村上文学を“撮る”ということ

『ノルウェイの森』には、「喪失」や「成長」といったテーマが根底に流れる。一方、岡田は、木村伊兵衛写真賞を受賞した写真集『I am』(赤々舎)で、自傷行為を繰り返す若者たちの姿を写しだした。悲しさ、儚さ、そして痛々しさ。それらを内包する写真は、生々しい現実をとらえながらも、“美しさ”というベールに覆われているかのように感じられる。この2人のアーティストに共通点はあるのだろうか。

「昔からなぜか、友人から村上作品をプレゼントされることが多かった。『ノルウェイの森』も、そんな一冊です」と語る岡田。自分から積極的に村上作品に触れることはなかったと言う。しかし、周囲は岡田と村上作品に通じる何かを感じていたようだ。その「何か」が、今回の撮り下ろしにもつながった。

Iam_2nd_600.jpg

「僕が自分のホームページ上で公開している作品を、同映画の小川真司プロデューサーが見て気に入ってくださったのが、きっかけでした。撮影の依頼を受けて、改めて原作を読み直してみたんです。そこで感じたのは、去年から撮り始めていた新しい作品のシリーズが、『ノルウェイの森』のために撮ったんじゃないかと思えるくらい世界観が“近い”ということでした」

これは、単なる偶然か、必然的な運命か。確かに、岡田の写真は、主人公のワタナベと直子の2人が目にした風景を思い起こさせるものだ。「『ノルウェイの森』を映像化すれば、こうなるだろう」と思わせる写真。その共通性に、岡田は「運命的なものを感じました」と言う。

「僕の作品は、人間の闇の部分を表現した、どちらかというとメインカルチャーだとは思われないもの。だから、世界中にたくさんのファンのいる村上さんの作品世界とは対極にあると感じていました。でも今回、人間の死や悲しみ、心が壊れていくという生々しさを、美しい風景や色彩をもちいて写真で表現しようとすると、一見対極にあるように思えていた僕と村上さんの作品が表裏一体のように思え、その根底に流れているものは同じなのだなと感じました」

Mori_2nd_595on600.jpg

その岡田の表現世界は、このガイドブックにもあふれている。
「僕が撮り下ろしたのは、カバー部分と前半約40ページの写真です。小説の1シーンを、数枚の写真で表現する――。最初に企画内容を聞いたときは、正直『無茶だなぁ』と思いました(笑)」

文学を写真で表現する。そのクロスオーバーは、とても困難なのでは?
「自分には初めての経験でした。しかも1枚の写真で表現して欲しいという依頼でもない。漫画のコマ割のように説明的な写真になってしまっても面白くはない。与えられたページ全体を通して『ノルウェイの森』の世界観を表現しなければならない。もちろん、すでに完成している映画が持つ世界観も壊してはいけない。これは、かなり勇気がいる作業でした」

>>女優陣による、もう一つの『ノルウェイの森』