特集

2010.12.14

ファインダーから覗いた、『ノルウェイの森』 ~木村伊兵衛写真賞作家・岡田敦インタビュー~

テーマ:トレンド  | カテゴリー:  写真  映画  

松山からワタナベに変わる“刹那”を写す

「ワタナベの撮影は、村上さんが実際に住んでいた和敬塾という寮で行いました。撮影当日、直子のシーンとリンクするように文鳥の“羽根”を撮りたいなと思って、早めに現地入りして寮の庭を歩いていたんです。そうしたら、偶然、1本の羽根が落ちていて。そのときにも、この作品との運命に導かれたような気がしました」
その羽根は、松山ケンイチのインタビューページ内に、象徴的に、そして強い意思を放ちながら存在している。作品世界を見事に切り撮った、一見の価値のある1枚だといえるだろう。

「ワタナベは、蛍を夏の夜の闇に放つシーンでした。どうしたら、このワタナベという人物像を描けるのか。松山さんが演じてきたワタナベをどう受け止め、写真として物語を広げていくか。そう考えながら、撮影をしました」

ファインダーから覗いた、『ノルウェイの森』  ~木村伊兵衛写真賞作家・岡田敦インタビュー~のサブ1写真【大】

カメラを構える岡田。ワタナベへと“入り込んでいく”松山。
「角度や顔の位置、『こんなことを思ってほしい』と伝えただけで、あとは松山さんにお任せしました。僕は、松山さんの内側でどういう動きが起こっているのかを見て、シャッターを切る。静寂のなかで、松山さんとの距離感を保ちながら、お互いにコミュニケーションをとっていた」

そこで岡田は、松山の変化を読み取ったという。
「ファインダーを覗いていると、松山さんがワタナベの役に入っていく過程がわかるんです。なにか、小説のなかのワタナベや、その周囲の情景が本当にそのまま出てきたというか。ワタナベのページの最終カットは、作品の持つ喪失感や愛といったテーマを伝える象徴的なものになったと思います」

ファインダーから覗いた、『ノルウェイの森』  ~木村伊兵衛写真賞作家・岡田敦インタビュー~のサブ2写真【大】

   岡田 敦

長年、村上にラブレター(実際は同映画用の自作脚本)を送り続け、ついに『ノルウェイの森』の映画化を実現したトラン・アン・ユン監督。彼も、岡田が撮った写真、とりわけワタナベの写真を絶賛したという。

「僕自身は、映画化の話題を耳にしたときに『原作で描かれている人間の死や悲しみをどうやって映像化するんだろう』と思っていました。リアリティを追求しすぎると、観るひとが拒絶反応を示してしまう。かといってエンターテインメントとして描くと軽い作品になってしまう。でも監督は、死や悲しみを生々しく表現しながらも、とても美しい映像として描いていました。そうすることで、観るひとが作品の世界に入っていくことができ、作品とつながれる。そのバランス感覚がすごく素晴らしいなと思いました」

人間の持つ脆さや儚さを、美しく表現する。それは、まさに岡田の作品世界、さらに村上文学に通じるもの。岡田本人が「僕がしようとしていることに非常に近い」というのもうなずける。

「簡単につくれるものよりも、むずかしいことをやるほうが楽しい。完成したあとは、高い山に登ったような達成感がありますし」。そう語る岡田は、この“運命的”な撮り下ろしを通じて、世界最高峰の『ノルウェイの森』という山を登った。海外からも注目を集める写真家がこれから残すであろう“運命の軌跡”、その行方が楽しみだ。

(文/あつしな・るせ)

インフォメーション
岡田敦/おかだあつし。写真家。1979年、北海道生まれ。大阪芸術大学芸術学部卒業、東京工芸大学大学院博士後期課程修了、博士号取得(芸術学博士)。2002年、富士フォトサロン新人賞受賞。2008年、木村伊兵衛写真賞を写真集『I am』で受賞。IPad・iPhone向け電子写真集『ataraxia』を発表するなど、幅広く活躍中。『木村伊兵衛写真賞35年周年記念展』(下記)にも参加している。

●岡田敦 公式ウェブサイト/ギャラリーページ
●youtube  "ataraxia [photo theater]"
●youtube 岡田敦写真集「I am」


木村伊兵衛写真賞35年周年記念展
開催期間 2010年11月13日(土)~2011年1月10日(月)
会場 川崎市市民ミュージアム
http://www.kawasaki-museum.jp/
お問い合わせ先 044-754-4500


映画『ノルウェイの森』
原作:村上春樹 監督:トラン・アン・ユン 音楽:ジョニー・グリーンウッド 主題歌:ザ・ビートルズ 主演:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子
12月11日(土)映画全国公開
http://www.norway-mori.com/index.html