Title:Beneath The Wheel 車輪の下
2024/9/12
子猫の目が開くと、母猫は人が集う居間へ向かう。お目見えという儀式に、タヌの母は妹だけ連れて行った。タヌは必死で目を見開くと、母を追った。
その後、期待の妹は早逝し、予想に反し、みるみる太り温厚な巨大猫となったタヌ。猫からも人からも愛されたが、ある日忽然と姿を消した。猫と繋がる母が、車輪の下で激しく胸をかきむしる夢を見たという。てんかん発作により、タヌが最期を迎えたのだと、私たちは悟った。
30年後、肖像画を描いていると、他の子を押しのけてタヌは現れた。印象的な瞳を描くと、何故かヘルマン・ヘッセの「車輪の下」が浮かぶ。ドイツ語の原語が「落ちこぼれ」だと知った時、タヌの生涯の意味に気づいた。目が丸過ぎると指摘されたが、まん丸な目だったのは、余裕がなく必死で生きていたからだ。猫の嫌いな爪切りさえ、率先して並び待つほど、いつも抱きしめて欲しがったのは、大きく育っても、心が繊細な落ちこぼれだったから。
車輪の下に生まれ、母猫から無かったことにされても、誰をも愛し自力で得た幸せを振り撒いていたタヌ。描き上がった時、オキシトシンに満ちた全身で、タヌの艶やかな心を、思い切り抱きしめ返していた。
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