Title:Pomp & Circumstance 威風堂々
2024/9/12
浜蔵が語りかけてきた。「俺、イケてる?」実は私の質問は、「これで合ってる?」だった。彼とは、直接会ったことがない。だからそのドヤ顔に安堵し、イケてるよ、と答えてもよかったが、黒毛を明るく描いたせいで、どうも茶髪のヤンキーに見えた。洗足池の番長なのに、スコティッシュ・ホールドな浜蔵には、無視できない品格がある。迷った挙句、黒髪に染め直した。シェイクスピアのオセロに因むという、エルガーの交響曲・威風堂々をテーマ曲として、イギリス尽くしの肖像画が完成。しかし浜蔵の目に、不良になり損ねた軽い不満が見えた。
雄猫は初対面だと、目を合わせてはくれない。対面相手を直視するのは、「食うぞ」という約束だからだ。初め心配だったが、私が思い浮かべた瞬間にさっさと現れ、気さくにポーズを取ってくれた。生前の資料は古いフィルム写真だから、視線や表情を捉えるのは難しい。しかしペンの先にいる浜蔵は、茶目っ気のある視線を、何度も向けてきて、助けてくれた。描いている間は、デートをしている気分だったので、描き上がった時は、胸がいっぱいになり涙が出た。すでに心を赦した無二の親友となった、モデルと画家の関係だ。
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